東京地方裁判所 昭和51年(合わ)16号 判決 1976年3月31日
主文
被告人を懲役一年六月に処する。
押収してある自動車運転免許証一通(昭和五一年押第四五五号の一)の偽造部分を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 昭和四九年五月一二日ころ、三重県一志郡香良洲町三九五二番地の四八所在の旅館「松阪屋」前駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車内から竹本享に対する自動車運転免許証(昭和四七年五月八日付神奈川県公安委員会交付、大型・普通・自動二輪免許、免許番号第四五六九一四九七〇三〇―二一〇七号)一通を窃取し、
第二 公安委員会の運転免許を受けないで、同五〇年八月一八日午後八時二五分ころ、東京都大田区矢口二丁目一番一〇号付近道路において、普通乗用自動車を運転し、
第三 前記第二記載の日時ころ、公安委員会が道路標識によつて右折方向への車両の進行を禁止した同記載の場所先交差点において、同記載の自動車を運転して右折して進行し、
第四 同四九年五月二〇日ころ、三重県安芸郡河芸町大字中別保字貝裏二四三番地所在のドライブイン「街道寿司」に駐車中の普通乗用自動車内において、行使の目的をもつて、ほしいままに、前記第一記載の窃取にかかる神奈川県公安委員会の記名押印のある竹本享に対する自動車運転免許証の写真欄に貼付されていた同人の写真を剥ぎ取り、同欄に自己の写真を貼付し、もつてあたかも自己が右免許証の交付を受けた竹本享であるかのような外観を呈する同公安委員会作成名義の自動車運転免許証一通(昭和五一年押第四五五号の一)を偽造したうえ、前記第二記載の日時・場所において、警視庁池上警察署警ら四係勤務警視庁巡査武尾健悦から自動車運転免許証の提示を求められた際、同巡査に対し、右偽造にかかる免許証をあたかも真正に成立したもののように装つて提示してこれを行使し、
第五 同五〇年八月一八日午後九時ころ、東京都大田区矢口二丁目一番一〇号所在の警視庁池上警察署安方派出所において、前記武尾健悦巡査から前記第三記載の道路交通法違反の事実について取調べを受けた際、前記竹本享の氏名を詐称して自己の前記第二及び第三記載の刑責を免れようと企て、氏名を「竹本享」と名乗り、同巡査が前記免許証の有効期限が経過していたことにより前記第二記載の事実につき交通事件原票(番号B一三八九二九)(前同押号の二)を作成するにあたり、行使の目的をもつて、ほしいままに、同原票中の同巡査作成の「捜査報告書」欄記載のとおり違反したことに相違ない旨記載された「供述書」欄末尾に「竹本享」と冒署し、もつて偽造した他人の署名を使用して事実の証明に関する文書一通を偽造したうえ、即時同所において、これをあたかも真正に成立したもののように装つて同巡査に差し出し、もつてこれを行使し
たものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は刑法二三五条に、判示第二の所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条に、判示第三の所為は同法一一九条一項一号の二、八条一項に、判示第四の所為中有印公文書偽造の点は刑法一五五条一項に、同行使の点は同法一五八条一項、一五五条一項に、判示第五の所為中私文書偽造の点は同法一五九条一項に、同行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項に各該当するところ、判示第四の有印公文書偽造と同行使との間及び判示第五の私文書偽造と同行使との間にはいずれも手段結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇条によりいずれも一罪として犯情の重い各行使の罪の刑で処断することとし、判示第二及び第三の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第四の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、押収してある主文掲記の物件の偽造部分は判示偽造公文書行使の犯罪行為を組成した物件で、なんぴとの所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、二項によりこれを没収し、訴訟費用については刑訴法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。
よつて、主文のとおり判決する。